限定承認の手続の流れ



限定承認の手続の流れ写真

前回の記事では、
限定承認の典型的な使いみちをご説明しました。

限定承認は、相続放棄を考える場面で
「相続財産の中にどうしても必要な財産がある」
といった特殊な事情がある場合に
有効な手続として機能します。

今日は実際にはどんな流れで
限定承認が進んで行くのか
もう少し具体的な手順をご説明します。

概要は次のとおり。

①相続財産・債務の調査

②限定承認申述を管轄の家庭裁判所へ提出

③相続財産管理人の選任(相続人が数名の場合)

④官報公告と個別催告

⑤相続財産の換価処分

⑥相続債権者への弁済

⑦相続人が残余財産を取得

それぞれ詳しく見ていきましょう。

限定承認の具体的な手順

相続財産・債務の調査

単純承認・相続放棄・限定承認、
どの選択をするにしろ、
前提となるのは被相続人の相続財産(債務)
の状況です。

したがって、
まずは被相続人の相続財産と債務を調査して
「相続財産目録」としてリスト化します。

もし、調査しても時間が足りなければ、
3か月の熟慮期間を延ばしてもらう手続を検討しましょう。


限定承認申述書を家庭裁判所へ提出

他の手続と比較検討して、
限定承認を選択した場合は、
被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内に
限定承認申述書を管轄の家庭裁判所に提出する必要があります。

提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

限定承認申述書には
・申述人目録
・遺産(相続財産)目録
・住民票除票または戸籍の附票
・戸籍謄本
・収入印紙 800円
・連絡用の郵便切手

などの必要書類を一緒に提出します。

※管轄やケースにより、その他の書類が必要になることもあります。

なお、相続放棄と違い、
限定承認は相続人全員が一緒に手続しなければいけません。


相続財産管理人の選任

相続人が1名の場合は、
その人が限定承認の手続を進めます。

相続人が数名いる場合は、
家庭裁判所は相続財産管理人を相続人の中から選びます。

ここで選ばれた相続人が代表者として、
限定承認の手続を進めます。

なお、申述の際に「この相続人を選んで欲しい」
という上申をしておくことができます。

いずれにせよ、原則として
誰か別の人がやってくれるのではなく、
相続人が限定承認の事務を行うことになります。

※限定承認をした人、相続財産管理人から
弁護士・司法書士などの専門家に
これらの管理を任せることは可能です。


請求申出の官報公告と個別催告

限定承認が家庭裁判所に受理されると、
5日以内(相続財産管理人が選任された場合は10日以内)に

2か月以上の期間を定めて
・限定承認をしたこと
・債権の請求をすべき旨
を官報に公告(の申込)をします。

この公告は決まった文章なので、
特別難しいものではありません。

また、最初の相続財産と債務の調査で
見つかっている債権者については
個別で通知を送ることになっています。


相続財産の換価処分

上記の期間が経過すれば、
具体的に清算事務を行うことになります。

しかし、相続財産がすべて現金で残っているということは
まずありません。

債権者に弁済するために、
必要に応じて財産を換価(=現金に換える)処分します。

この換価処分は、競売で行うことになっています。

このとき、
家庭裁判所が選ぶ鑑定人の評価にしたがって
その金額を相続人が弁済すれば
競売をストップして自分のものにすることができます。
(これが前回の記事の「先買権」です。)


債権者・受遺者への弁済

相続財産を現金化した後は、
請求申出のあった債権者に弁済をしていきます。

なお、相続財産で全額弁済できない場合は
債権の金額に応じて按分して弁済します。

もし遺言書などがあり
受遺者から請求申出があったときは、
債権者への弁済が終わって余りがあれば
支払うことになります。

プラス財産よりマイナス財産の方が多ければ、
限定承認の手続はここで終了です。

プラスの財産で支払いきれなくても
相続人が支払う必要はありません。


相続人が残余財産を取得

全ての債権者・受遺者への弁済が終わって
もし相続財産が余ったときは、
その残余財産は相続人が取得できます。

その後は通常の相続手続に移行しますので、
単純承認と同じように
相続手続を行うことになります。


まとめ

このように、限定承認は手順が独特です。

単純承認のように
任意のタイミングで処分したり、
債権者へ弁済することはできません。

破産などに近い、
清算手続になりますので
限定承認をした人(相続財産管理人)は
決まったプロセスにしたがって、
相続財産を管理しつつ
換価や弁済を進めていきます。

書類を出して終わり、
というわけにはいきません。

限定承認を使って
相続人の目的を達成するため
正確に手順やスケジュールを組み、
それぞれの場面で適切な行動をするためには

専門家のアドバイスを受けながら手続きを進める
相続財産の管理と清算事務を任せる

といったことも検討した方が良いでしょう。


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